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2022.04.15 瀬戸芸断簡④

Directors Blog #4

作品巡遊(男木島・女木島)

 村山悟郎は海に面した角っ子の家の内部へ、桃山時代の絵師たちがやったように壁や欄間に綿密なドローイングを施しました。この家は第一回の芸術祭でタイのチェンマイからやってきた西堀隆史の〈うちわの骨の家〉、2013年の和傘600本を用いた〈時の廊下〉や、第二回の韓国のイム・ミヌクの外壁も内部も使ったインスタレーションで力作が続く名所になっていて、前回から継続して描き込まれています。一階は植物、二階は貝で、アクリル絵の具で描かれているのに日本画の顔料を使用しているかに見えるほど綿密で、顔料が浮いて光っています。螺鈿のようです。若沖の「樹花鳥獣図屏風」のような枡目描きを思わせる傑作です。


 眞壁隆二は、倉庫にさまざまな色に塗られたアクリル板を重ねて貼っていく新作。路地のいたるところに散見される家の壁板で来島者から風景に溶け込んでいると人気のあったプロジェクトでおなじみ。
川島猛はかつてニューヨークで発表したものの再制作。その他、TEAM男気の<タコツボル>、松本秋則、大岩オスカール、漆の家、レジーナ・シルベイラ、山口啓介、ジャウメ・プレンサなどのしっかりした作品があって迷路の坂道巡りは楽しいものでした。夏には大岩オスカールと坂茂の新築の家、ロシアの期待の若手エカテリーナ・ムロムツェワの〈学校の先生〉、台湾のワン・テユのやわらかな新作が登場するので期待がもてます。


 それ以外では〈女木島名店街〉と仮に呼んでみるお店つきの新作が登場します。三田村光土里のという手芸工房、あきびんごの〈瀬戸内カーニバル〉は故郷の尾道水道と女木島の鬼ヶ島伝説の絵本屏風、大川友希の古着の家、千葉県は印旛沼の漁師でもある柳建太郎の耐熱ガラスの超絶技巧による作品に付随するルアーを始めとするガラス漁具、中里繪魯洲の〈ティンカーベルズ・ファクトリー〉、岩沢兄弟の古い電化製品をユニークな照明器具に直し仕立てあげる〈鬼ヶ島ピカピカセンター〉は、皆力作です。女木島発のブランドが生まれ、スタートアップ店舗が育ち、島の人が利用できる店になるとよいですね。私が行ったときは五所純子の〈リサイクルショップ複製遺跡〉は工事中、小谷元彦は構想中でしたが、前回以来の依田洋一朗の〈MEGI ISLAND THEATRE 女木島名画座〉、大竹伸朗の〈女根/めこん〉、レアンドロ・エルリッヒの〈不在の存在〉〈ランドリー〉、原倫太郎+原游の〈ピンポン・シー〉、ヴェロニク・ジュマールの〈カフェ・ドゥ・ラ・プラージュ〉、宮永愛子の〈ヘアサロン寿〉は相変わらずレベルが高く、色あせるどころかますます魅力をましているように思いました。

 その他、風景に溶けている作品があるのも女木島の特徴で、木村崇人の〈カモメの駐車場〉禿鷹墳上のピアノの帆船<20世紀の回想>は懐かしい。ぜひ行って欲しいのは杉浦康益の〈段々の風〉で、ここから見える風景は絶品です。男木島の交流館、図書館、小中学校のような全国区の島の名店街が生まれるといいなと思います。

 一昨日は濃霧で午前中停船。昨日は時おり雨、今日は小雨。水分を貯えてしっとりした瀬戸芸にいらして下さい。


2022年4月15日
瀬戸内国際芸術祭総合ディレクター 北川フラム

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