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2022.04.14 瀬戸芸断簡③

Directors Blog #3

瀬戸芸開会式

 浜田芸術祭実行委員会会長も福武総合プロデューサーも力強い挨拶でした。十河県議会議長、駐日リトアニア共和国大使館臨時代理大使の祝辞のあと、アーティストがひょっこりひょうたん島の音楽にのって浮かびあがる。大垣里花パフォーマンス担当の演出かな。真鍋武紀前知事も壇上に上がってもらい記念撮影。浜田知事も4回の芸術祭を成功させてくれました。瀬戸芸いよいよOPENです。島の人たち、アーティスト、サポーター、スタッフありがとう。これからも引き締めていきまっしょい!



前2回に続いて新作について
 以前はパチンコ屋さんだった場所が下道基行によって瀬戸内「 」資料館という不思議な名前に変わって第3回目は「鍰造景」資料館になりました。
 鍰とは、鉱石を溶かして金属を製錬したときの残り滓のことですが、銅の精錬所だった直島で、鍰がどう生活に影響し風景にどう関わってきたかを、資料を集め、読み、展示したものです。
 下道は大学を出て日本中のかつての防空壕を調査して回ったり、太平洋戦争下、植民地で鳥居がどう使われ、残っているかを調査したれっきとしたアーティストです。2年前から夫婦ともに直島に住みつき直島という土地を掘り下げてきて、1回目は「緑川洋一」資料館、2回目は「百年観光」資料館を開いてきました。この一世紀、美術は白い高い壁というホワイトキューブと呼ばれる空間で、それは高松でもニューヨークでも東京でも、どこであっても作品は同じ条件で見れることが大切だ、という考え方が主流でした。それは20世紀が機会均等、民主主義、公平平等という目標に向かっていたことによるものです。世界中の都市の建物が鉄骨、ガラスのカーテンウォール、高層建築になりました。それは間仕切を変えればオフィスにもレストランにもなる効率のよい均質空間です。しかし、今回の芸術祭がコロナ禍で、かつロシア軍のウクライナ侵攻のなかで開催されているように、世界は数百年にわたる地域環境の悪化と植民地主義の揺曳が爆発したような状態になっています。それが最近の社会的格差の増大とお金が絶対的価値になることによって差別で苦しむ人達がでてきていることに表れていて、今、世界のいたるところで再度、固有の地域の独自性、特色を顕かにし、掘り下げるアーティストが登場してきています。下道はそういうアーティストの前線にいるのです。瀬戸内「鍰」資料館には直島が凝縮しているように思えます。

 そのすぐ横に三分一博志の直島プランの第3段、「職員寮」の建築途中を見せてくれる場所があります。直島では家屋は古来、南から北への風の通りにあわせて襖をあけて風の通りをよくしたり、家屋の下(地下)に水を流して空気の循環を図ったりの伝統があり、それらを活かすのが三分一の設計態度でしたが、今回はその上に、土台石に穴をうかち棟杭が動くことにより柔構造にすること、杭のなかに孔をあけ横棧を通す、ヌキという伝統工法によって地震に強い建築にするという方法の途中経過を人に見せようというプロジェクトを行っているのです。

 直島にはそうそうたるアーティスト・建築家の仕事がたくさんあり、今回も安藤忠雄のヴァレーギャラリーには草間彌生、小沢剛の作品が加わり、杉本博司ギャラリーができたりしていますが、現代にグサリと突きささる試みもされているのです。

 小豆島では伊藤敏光の〈ダイダラウルトラボウ〉がおかしかった。尾身大輔の力わざ、田中圭介の夢想も不思議でした。福武ハウスにはカフェもでき、館内の展示はレベルが高いので是非行ってみて下さい。やがてできる寒霞渓の青木野枝の鉄作品〈空の玉〉は楽しみです。


豊島のオーストラリアのヘザー・B・スワン+ノンダ・カサリディスの鉄の鋳造の長いベンチは甲生の砂浜にあって、とてもおおらかで美しいものでした。二人が両端から足を伸ばした写真を誰か撮ってくれないかな。いつもオーストラリアは甲生で作品を作ってくれます。

いよいよ明日は名前を変えた〈四国村ミウゼアム〉の中のエントランスにできる川添善行設計の「おやねさん」の除幕です。四国全域から失われていく民家、民具を収集したほんとうに立派で楽しめます。ゆっくり皆さん行ってください。安藤忠雄のギャラリーも気持ちがいいです。

 この民家散歩の楽しみに今回は新たに5つのおまけがついて楽しい。本山ひろ子が5個所に小動物の鋳造を置いたので検分したのですが、それぞれに楽しい民話があって、これがまた楽しい余得だったのです。紙数もないし、見てのお楽しみなのでここには記せませんが、とてもよかった。〈四国村ミウゼアム〉は高松・香川・四国の宝です。


2022年4月14日
瀬戸内国際芸術祭総合ディレクター 北川フラム

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