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2022.11.01 瀬戸内国際芸術祭にて、大島と男木島それぞれで作品発表を行ってきた山川冬樹と村山悟郎がコラボレーションを行い、2022年秋に収録したパフォーマンス映像作品《大島_男木島 Inter-Island Timescapes》を発表します。


島のほぼ全体がハンセン病療養所となっている大島では、かつて隔離から逃れ海を泳いで逃走しようとする者が後をたたなかったという。山川冬樹の『海峡の歌』(2019)では、人間が自由を求めて生きながらえようとする、その切実な生の在り方がモチーフとなっていた。他方、瀬戸内一帯には野生のイノシシたちが生息しているが、しばしば島から島へ海を泳いでわたる様子が目撃されている。もしかすると身命を賭しても自由を求めて生きようとする本能において、野生のイノシシたちと私たち人間は根底で響き合っているのかも知れない。

大島と男木島は直線距離で約4キロ離れている。両者は隣りあいながらも海で隔てられ、それぞれ異なる時間、文化、歴史と記憶、そして未来を持っている。山川と村山はこれら二つの島と島の間=Inter-Islandに存在する差異と隔たりに文字通り向き合いながら、そこに生起するものに賭け、海を越える二頭の"イノシシ"となって交信を試みる。


Timescapes(時間の風景)
島には特有の地勢があり、固有の時間性があらわれる。男木島では、戦後の引き揚げによって興隆した昭和の街並みが今もそのまま残っている。豊玉姫神社を中心にして山の斜面に集落をなし、迷宮のように細道が入り組んで、まるで開発を阻むかのようだ。野放しの廃屋には、たくましく植物が生い茂って、島全体がタイムカプセルのように時の流れを留めている。また、芸術祭の影響もあって移住者も少しずつ増えはじめており、2014年には男木小中学校が再開するなど、新たな世代も育まれつつある。

一方、大島は明治42年に「第四区療養所」が設置されて以来、島のほぼ全体が国立病療養所大島青松園となっている。「らい予防法」が平成8年に廃止されて以降、現在も38人の入所者が暮らしているが、島では子をもうけることが許されなかったため、記憶の継承と将来構想が大きな課題となっている。大島は重い歴史を宿す島でありながら、島内に漂う空気はカラっと爽やかで、中央に広がる平地には真新しい施設が建ち並び、公園のように隅々まで手入れが行き届いている。それは過去を消し去りながら環境が日々更新されているかのようで、男木島の"昭和"を留めるタイムカプセル性とは対照的である。しかし一見人工的に見える大島の風景は、島に隔離を強いられた者らが処遇改善を求め、長年の闘いの末に国から勝ち取った「時間の風景」であることを忘れてはならない。このように島の景観一つをとっても、男木島と大島に流れてきた歴史的時間の差異を見てとることができる。


また日常的にそれぞれの島と四国本土とを結ぶ定期船の存在は、時刻によって厳密に規定された時間感覚を島にもたらしている。時間に追われながら芸術祭を鑑賞する者は、島民や入所者らとはまた異なった時間感覚を生きることになる。船の定期的な往来は寄せては返す人流をつくり、島のバイオリズムの一部を成す。島の静寂に耳を澄ませば、穏やかなサウンドスケープのなかに、活発な島社会の律動を感じることができるだろう。

さらには両島に流れるそれぞれの時間を一つの大きな時の流れが包み込むように、日の出・日の入りのサイクルや、気候や気象変動のダイナミズム、天体の動きに伴って生じる潮の満ち引きが関わっている。島の漁師たちは瀬戸内海の急激な干満差に自らの生活をカップリングさせながら仕事をするだろう。太陽光は空間に色や温度といった情態をつくりだし、朝もやから夜の闇へと至るその緩やかな変化もまた、主観的な気分の変化を連れだって特有の時間感覚をつくりだすだろう。

このように島の固有な時間とは、歴史の顕れとしての景観はもちろんのこと、時計によって示される近代的時刻(クロノス)や社会的情態(ノモス)としての音景だけではなく、自然のマクロなリズム(ピュシス)や、主観的な情動の変化率(カイロス)など、様々な時間の様相がポリリズム的に混成してあらわれている。

山川と村山は大島と男木島で固有に生成されるこれらの多元的な時間を、己の身体で媒介しながら結び合せ、アンサンブルを奏でるようにパフォーマンスやドローイングを重ねていくことで、島と島の間に生起するTimescapes=時間の風景を描き出す。


動画はこちら
https://player.vimeo.com/video/765979502?h=f0ce1c3222&badge=0&autopause=0&player_id=0&app_id=58479


《大島_男木島 Inter-Island Timescapes》


企画・出演・制作:

山川冬樹 Fuyuki Yamakawa
村山悟郎 Goro Murayama


撮影(大島):

稲田禎洋 Yoshihiro Inada


撮影(男木島):

渡邊元 Hajime Watanabe


編集:

稲田禎洋 Yoshihiro Inada


音響:

山川冬樹 Fuyuki Yamakawa


撮影アシスタント:

大橋真日菜 Mahina Ohashi
張子宣 Tzuyi Chang


イカ釣り:

中野達樹 Tatsuki Nakano


マネジメント:

笹川尚子(こえび隊大島担当) Shoko Sasagawa (Koebi Network)
岡本濃(ART FRONT GALLERY)Koi Okamoto (ART FRONT GALLERY)


ラップ『海をわたれ、イノシシたれ』

作詞:山川冬樹、村山悟郎
作曲:山川冬樹


引用:

『白描』(昭和14年)明石海人著
『豊玉姫伝説』男木中生徒会(豊玉姫神社)
『青松 2022 7・8月号(通算第713号)』国立療養所大島青松園協和会発行


猪動画提供:古市祐士 氏(フルネットサービス)Yuji Fruichi (Full Net Service)


山川冬樹
やまかわふゆき
(日本)

身体や声と社会や環境の関わりを探求しながら、美術、音楽、舞台芸術の境界を超えて活動。他の代表作として個とマスメディアの記憶を巡るインスタレーション『The Voice-over』(2008年/東京都現代美術館蔵)などがある。己の身体や声を駆使したサウンド・パフォーマンスを得意とし、これまでに16カ国で公演を行う。

【主な作品・展覧会など】
2021  パフォーマンス《Found in Odawara》クリスチャン・マークレーとのコラボレーション神奈川県、江ノ浦測候所
2021  展覧会《3.11とアーティスト 10年目の想像》グランギニョル未来のメンバーとして茨城県、水戸芸術館
2017  展覧会《Japanorama 1970年以降の新しい日本のアート》フランス、ポンピドゥー・センター・メス
2017  展覧会《ヒツクリコ ガツクリコ ことばの生まれる場所》群馬県、アーツ前橋
2015  横浜文化賞 文化・芸術奨励賞


村山悟郎
むらやまごろう
(日本)

1983年東京生まれ。アーティスト。博士(美術)。東京芸術大学油画専攻にて非常勤講師。東洋大学国際哲学研究センター客員研究員。自己組織的なプロセスやパターンを、絵画やドローイングをとおして表現している。

【主な作品・展覧会など】
2022  Drawing-Plurality 複数性へと向かうドローイング<記号・有機体・機械>(PARCO MUSEUM TOKYO、東京)
2021  多の絵画(The POOL、広島)
2020  Painting Folding(Takuro Someya Contemporary Art、東京)
2019  あいちトリエンナーレ 2019(愛知県美術館、愛知)
2019  瀬戸内国際芸術祭2019(男木島、香川)

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